〜とある超会議にの日あったかもしれない出来事〜
★ロイ編
その日の「エンディング」は、いつもと違ったものが見えていた。
何度か見たことがある、「地球」と呼ばれる星のエンディング。
に、とても似ている「もう一つの地球」のエンディングだったのだ。
多重の世界があることを知っているから、それ自体は特に疑問に思わないのだが。
「……?!」
世界の瞳を通り、いつものように扉をでて、そこは……。
なにやら祭りでもあるのだろうか?
ものすごい人手で、ガルソと離れないようにしないと、と隣をみたときだった。
「…………?!」
声にならない悲鳴がでた。
世界の瞳の力の関係で、そんなに遠くへはいけないはず……で、遠く行きすぎたり、一定の時間がたてば元の世界に戻ってしまう。
だから、確かにそこまで心配になることはないのだろうけど。
「俺が、ならないわけないでしょ?!」
そもそも、敵はいまだ健在なわけだ。
どこでどうなるかわからない。
この世界でも戦う人々をエンディングを通してみていたから知っているけれど、そんな人とうまく出会える率だって高いわけじゃないのだから。
自分に探知の能力なぞないけれど、ガルソが何を感じてどう動くかぐらいはなんとなくわかる。
ここで待っていれば確かに出会えるかもしれないけれど……。
時間もないとなれば、敵を探して動いた方が出会える率が高い。
任務を優先するであろう……いや、自分を信じて先に向かっているであろう主を追いかけて、人をかき分けていく。
「絶対に、ガルソより先に見つけ出す!!」
今は妻としてよりも、彼のガーディアンとしての気持ちの方が強かった。
視界の先にみえた、パンプキンオレンジの長い髪。
それは、見間違えるはずもない自分の主……そして最愛の旦那様のものだ。
だがしかし。
「……違う」
身長も違うし、ガルソの腕と同じ場所……が、焔に包まれているが、そこも勿論違う。
なにより纏う雰囲気が、明らかに自分の主であり、最愛の旦那様とまったく違う。
とはいえ、ガルソよりは少し若いころ……そう、自分がまだ出会う前だろうガルソと言われれば、なんとなくそんな気がする人物ではある。
「ロイ」
その彼も自分に気が付いたのだろう。
そう呼んだところで、彼の言う「ロイ」とは違うのだと気が付いたようだ。
しかし、びっくりした。
声までそっくりだとは。
(でも、俺の名を呼ぶ声音は、全く違うね)
自分を呼ぶガルソの声音。
多大に愛を含んでくれるのとは違うそれに、苦笑が毀れた。
まるで出会った頃のようだ。
「初めまして、ロイと俺の名を呼ぶ貴方は何方様?」
俺の言葉に瞳を瞬き、ガルソにそっくりな彼が唇を開く。
「……え?」
その名も、まさかガルソと同じとは。
「そう、ガルソなんだね、貴方も」
様をつけろと尊大に言われて、笑いが毀れる。
なるほど、この世界のガルソは「俺様」のようだ。
「俺の主はガルソだけだから、貴方を様付で呼ぶのはちょっと気が引けるけど、さん付けで呼ばせてもらおうかな」
まぁ、そこが落としどころだと思ってもらって諦めて貰おう。
さて、この世界には俺のそっくりさんもいるようだ。
どうやら彼も彼の「ロイ」と離れ離れになってしまったようだし……。
「一緒に探しましょうか?」
何度か世界を渡り歩いて培った説明ノウハウ。
ぱぱっとした説明に、ガルソ「様」が頷く。
(まぁ、この世界の俺も、ガルソ「様」を探し出す能力は絶対あるでしょ……)
話をきくにつれ、その考えは間違えてなさそうであった。
★狼ロイ編
その日は、超会議と呼ばれるお祭りだった。
ガルソ様とともにデート(と自分は声を大にして主張したい)に行く約束を取り付けた俺は、ともに城下町……と、そしてそれに繋がる超会議の祭り場所を巡っていたわけだけれど。
なぜだかその日は、ケルベロス達にも何かいつものと違う(それは超会議だからというわけではなく)雰囲気を感じ取っていた。
だからこそ、どこか警戒をしていたわけで。
ふと何か視線の先によぎった気がして視線をガルソ様から外したのも、そういう雰囲気があったからなわけで。
「…………?!」
まさかその一瞬で、ガルソ様を見失うことになるとは思わなかった。
「ガ、ガルソ様、どこ……?!」
慌てて辺りを見渡すのだった。
ガルソ様の下僕となってまだ少し。
それでも出会った頃よりはガルソ様のことを沢山しっているつもりだけど、まだ彼の行動原理が理解できていない。
(下僕としても、つがい候補に入れてもらうにしても、まだまだだ……)
しょんぼりと尻尾がなりつつも、それでもガルソ様ならば自分を捨て置いていくこともないだろう。
(そうだ、スマフォ!)
こういう時の連絡を、と取り出した時だった。
「ガルソ様!!」
あのパンプキンオレンジの長い髪、間違いない、ガルソ様だ!
「……あ?」
振り返った人の顔……は、ガルソ様にそっくりだったけれど、(いやでもちょっと老けているようにも見える)まず、匂いに違和感を感じた。
そっくりなのに、ちょっと違う。
変な、香り。
それに、肌を見せているところは同じでも、地獄の炎がない。
じっくり見れば見るほど、似ているだけに物凄い違和感を発する人物だった。
じりじりと後ろに下がる。
「……」
「……」
見つめあうことしばし。
ガルソ様(偽)の視線が耳と尻尾に注がれる。
ふむ。と頷く。
「ロイに似てるな」
「……俺の名前何で知ってるんですか?!」
ガルソ様そっくりな声で自分の名前を呼ばれて耳と尻尾がぴーんとなれば、くくっと喉を震わせて笑われた。
なんだかそれも、ガルソ様そっくりだ。
そのガルソ様(偽)はなぜか落ち着いた口調で説明を始めた。
それは、今日の「違和感」を説明してくれるもので、背筋が伸び始める。
「ガルソ様を見つけないと!」
ガルソさん、(まさかのガルソ様と同じ名前で苗字だった)の説明が本当ならば(そしてこれはケルベロスとしてのカン? で本当だとおもった)、急いで合流しないといけないだろう。
「ロイのことだから、この世界の「俺」にあってるかもしれないな」
「……」
なるほど、どの世界でも「俺」は「ガルソ様」と出会う運命のようだ。
まずはスマフォ……は通信状態が繋がりにくかったために、狼変身すれば、ガルソさんが瞳を瞬かせたのだった。
★出会いました。(ロイ目線)
「ガルソ!!」
「ガルソ様!!」
ガルソと共に現れたその姿を見たとき、まず湧き上がったのは、俺なのに俺じゃない者が隣にいる嫉妬。
そして、若いころの自分を見ている錯覚(それは大抵青春のしょっぱいあれそれを思い起こさせる何かを連れてくる)
(まさかこの世界の俺に耳と尻尾が生えているとは!)
妻犬と称される自分を具現化したなにかではないだろうかと思う。
犬(だと思っていたのだが、あとからきいたら狼だった)から突如、人の姿に戻ったのにはびっくりしたが、第一声が見事被ったのには笑いが毀れる。
「「ロイ」」
2人の声音が見事ハモるが、やはりその名に込められた感情は違う。
愛おしい旦那様が呼ぶ名に、ぱっと笑みが毀れた。
自然と俺ともう一人の俺……ロイと呼ぶことにした……がそれぞれの、主の元へと向かう。
ほっとした表情は共通だったのだろう。
ガルソとガルソ「様」が同じように笑いを零す。
それにしても、改めてみるとそっくりだ。
(いや違うか、ガルソよりガルソさんのほうがでかい……)
角と羽の効果もありそうだが(ちなみに、ドラゴンなのだと聞いてあってるな、と思った)、それでも大きい。
「まぁ、ロイは『ロイ』だからな」
頭を撫でられれば、にへりと笑みが浮かぶ。
そうだ、ガルソの「ロイ」は俺だけで、ガルソ様のロイも彼だけなのだろう。
頬をむにむにされて、情けない声をだしているロイに視線を向けた先に、見えたのは敵の姿。
はっと、皆が戦闘状態になる。
「きやがったな」
「ガルソ、行こう!」
ガルソと視線を交し合う。
共に過ごした時間が、共に戦った経験が、この敵を倒すことが出来ると教えてくれる。
さぁ、この人の盾となり、剣となろうじゃないか。
★共闘編(狼ロイ目線)
とある騎士の物語。
という絵本が小さいころ大好きだった。
少し大きくなった後は、物語の「とある騎士の物語」を愛蔵していた。
その騎士は二度、主を失いそして三人目の主と共に、世界を守る戦いへと身を投じていく。
勝利を収めた後は、死ぬまで主に仕え、共に果てるのだ。
(なんて理想的な主従なんだろうって思っていたけれど)
ガルソ様の動きを見ながら攻撃を仕掛ける自分とは違い、ロイさんはガルソさんを見ることはほとんどない。
背中で、自らの主の動きを感じ取っているようだ。
時折交し合うその視線は、お互いに動きを読み取るそれ。
(これが、主従なのか……!!)
圧巻。
その一言に尽きた。
「ガルソ様っ」
自分がガルソ様と実際にゲート以外で戦ったことはあまりない。
それでも、自分なりに下僕としてやってきたつもりだけれど。
(上には上がいて、俺はまだまだ上を目指していける……!)
新たな目標ができた気がして、戦いの高揚感もあってか笑みが毀れる。
「強いですね」
「あぁ、そうだな」
それは、敵もだし、そして自分達に似ているあの主従のことでもあった。
ケルベロスとしてそれなりに戦歴を持っているつもりだった自分だけれど、これはもう、脱帽するしかないレベルだ。
勇者。
そう呼ばれるのも分かった気がした。
楽しげに攻撃を仕掛けるガルソ様の隣で、思う。
いつか、きっと自分もロイさんぐらいまで昇り詰めてみせる。
だから、その時……。
(あの、2人みたいな関係になれてたら、いいな)
いや、絶対になってみせる。
最後の一撃を繰り出し、倒れた巨体。
ロイさんがぱっとガルソさんを振り返り、そして……。
「んんんんん?!」
「……………」
抱き合い、口付けあう2人をみて(ちなみにあとで、ほとんど動けないロイさんを回復させるためにライフベリーを与えていただけだと聞いたんだけど、それでもびっくりした)耳と尻尾がぴーんとなったのだった。
既に残された時間も僅か。
その間に話せるだけ話をして、2人は帰路に、そして俺とガルソ様はデート(と、声をだいにし/ry)へと向かう。
「ガルソ様、ガルソ様」
「なんだ?」
「あの2人、凄く素敵でしたね!」
「…………そうか?」
ガルソ様がそう言うが、力強く頷く。
「あの、ロイさんを超えて見せます」
「……」
目標は、常に高く、そして沢山。
きらきらと輝く俺に、はぁっと盛大に溜息をガルソ様がつくのだった。
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