微笑みの女神


凄く、おなかが空いてたんです。
そういってやってきたシンの両手には、明らかに1人分じゃ消費しきれない量の食材があった。
唖然とした表情のまま見つめていたら、シンが心底呆れたように此方を見た。
「なんでありますか?邪魔なら帰りますが」
「邪魔なわけないじゃない!…って、今丁度部屋片付けてて汚いんだけど…」
僕の言葉に、シンがちらりと此方を見て溜息ついた。
「別にそういう意味で期待なんてしてません。掃除しようと思っただけましじゃないですか?」
一体君は僕をなんだと思ってるのと聞き返したかったけれど、僕の脇を通るときになぜか嬉しそうに頬がゆるんでる姿を見て、何もいえなくなった。
シンが嬉しいのなら、それでいいか。
思考を切り替えて一緒についていく。
迷わずにキッチンに辿り着き手際よく食材を並べていくシンに笑みがこぼれる。
最初の頃はずっとあっちをみたりこっちをみたりしていたから。
…少しは慣れてくれたのだろうか。
このままずっと一緒に暮らしてくれたらいいのに。
そんな念を込めていたら、視線に気付いたのかシンが此方を向いた。
「なんだよ。料理なら作っててやるからあんたはさっさと片付けの続きでもすれば?」
「あ、ごめん…ありがとう」
まぁまだ付き合ってもいないのにその思考は早いかと心の中で溜息ついて、部屋の片づけを始める
ふと、写真立てに肘が当たった。
「あ…」
「大丈夫ですか?」
手を拭き拭ききたシンがガラスを避けようとする。
怪我をしちゃ不味いと思って、咄嗟に手を払ったんだけど……。
「………っすみません、俺が触ったら…いけないですよね」
写真の先には微笑む彼女。
もう、いない。
ただ、写真の中でしか微笑むことをしていない彼女。
違うんだ、君が怪我をしたら…といおうとして、何もいえなかった。
悲しそうなシン。
何を言えって言うんだろう。
僕の手がさ迷い、ぎゅっとシンの手を握った。
「え?」
「今、言っても伝わらないと思うから…だから…これだけ。気持ちだけ、貰っておく」
ありがとう。
そう笑えば、なにがなんやら…という表情だったシンが少しだけ微笑んだ。
「俺、料理してきます」
残された僕は、そっと写真に手をやり…呟いた。
「ねぇ、新しい恋に歩き出してもいいかな?」
彼女は微笑んで…目の錯覚だとしても。
頷いてくれたような気がした。




2010・2/13 如月修羅 愛方以外文章許可していません。

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