“今年もこの季節が来たね”
そう呟き、勘太郎が笑った。 蛍狩り 田んぼのあぜ道を三人で歩いていれば、所々で蛍の黄緑色の光が舞い踊っていた。 「きれいねぇ〜」 「……あぁ」 物欲しそうに見つめる春華に、勘太郎が微笑む。 「ダメだよ、春華。蛍は長く生きることが出来ないんだから…」 伸ばしていた指先を引っ込め、春華が驚いたように勘太郎を見つめる。 「そうなのか?」 「そう…。精一杯“今”を一生懸命生きている彼らを採っちゃダメ」 「…目で見て楽しむのね」 「…そう。人間とは大違いだね」 「争いばかりして殺しあう人間とは?」 春華の皮肉な笑みに勘太郎が頷く。 ―――ザァ… 風が吹き、蛍が三人の周りを取り囲んだ。 「…綺麗ね」 「うん」 ヨーコちゃんがなだめるように勘太郎にと微笑む。 ついっと白い指先を伸ばした勘太郎は突然なにを思ったのか、唐突に口を開いた。 「ボクが死んだら…蛍になって二人に会いにいくよ」 蛍の光に囲まれ…そう言う勘太郎に二人は息をのむ。 「バカなこと言わないで!」 「死ぬとか…言うな」 二人のその言葉に小さく首をふる。 「今すぐの話しをしてるんじゃないよ」 「………え?」 「………」 「だってボクは生きてやるもの」 凛とした声。 「“死にたい”と思う人間はいない」 「……………」 「本当は生きていたいのに、死んでしまう人もいるけれど…」 「勘ちゃん…」 ふわりと微笑む。 「時に自殺をしてしまう人もいる。けれどボクは…」 「………」 「生きて生きて生き抜いて。でも…それでも…いつか遠い未来にボクが死んだら」 ―――ザァ……。 再び風が吹き、蛍が空高く舞い上がる。 「春は桜の花びらになって、夏は蛍になって…秋は落ち葉になって、冬は…雪になって春華達に逢いに来るよ」 蛍が舞う。 風が吹く。 毎年この季節になれば…蛍を見る。 春は桜をみ、秋は落ち葉を踏みしめる。 冬になれば雪を手に受ける。 “逢いに来るよ” 人間は転生するという。 戦火を見つめ…遠い昔に死んだ主を思い出す。 蛍が一匹、目の前にふわりと現れ…消えた。 戻 2005.8/15 如月修羅 |