地獄
いいんだよ。
好きな処に行って。
いいんだよ。君を望む人のところに行って。
………いいんだよ。
「勘太郎…」
きつく抱きしめた体は、今にも壊れそうに腕の中にある。
ねぇ本当に、いいんだよ。
壊れた人形のように同じ言葉を繰り返す勘太郎の肩にと顔を埋める。
お前は、そうやって。
こえにならない声を、勘太郎が感じ取ったのか…赤い唇が楽しそうにゆがめられた。
いいんだよ。
「勘太郎…」
己すらも勘太郎と同じように壊れた人形のように、意味の成さない名を呼ぶ。
最期に君がボクの元に還ってきてくれるなら、ボクはそれ以上を望まない。
「勘太郎」
ボクは欲張りなんだよ、春華
実は、ね。
そう言って笑う勘太郎は赤い瞳をこれいじょうなく妖艶に瞬かせながら、白い指先で己の唇を辿る。
この唇が誰に触れようとも。
誰に話しかけようとも。
ボクは君が最期に戻ってきてくれるのなら…。
だから。
「いいんだよ、春華」
君は好きに生きていい。
でも最期はボクに囚われて。
そして共に地獄に行こう。
笑って言うその台詞に怒るべきだろうに…。
白い腕が肩にと回り、引き寄せられ…その何よりも恐ろしい言葉を吐く唇にと唇が重なる。
いいんだよ。
その言葉には頷けない。
だが…逝けるものなら共に逝こう。
地獄の果てまでも。
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2005.12/4 如月修羅
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