貴方に会えてよかった
さらり。
さらり。
音を言葉にしたらきっとそんな言葉だろう音がきこえる。
勘太郎が筆を持ち、滑るような手並みで文字を書いていく。
「なにしてんの、春華」
「……見てる」
至極当然のことを答え、後ろから覗き込むように勘太郎の手元を見つめる。
細い指。
まるで魔法のように白い紙に文字がつづられていく。
「そう」
邪魔だろうに、それ以上何も言わず書くことに集中する。
さらり。
さらり。
静かになった部屋に再び音がきこえる。
「………」
「…………春華」
「ん…?」
書く手を止め、勘太郎がこちらを見る。
「寂しいの?」
「はっ?」
「いや、構って欲しいのかなぁ…と思って」
にこり。
と笑いながら言う勘太郎に引きつった笑いを零す。
「んなわけないだろう?」
「そう?ボクは寂しいよ」
「……?」
「春華が構ってくれないと」
「勘太郎…」
「寂しくて死んじゃうね、きっと」
うさぎは寂しいと死んじゃうんだよ。
と、どこかおちゃらけた言い方をしながらも、瞳は寂しそうに此方を見ていて。
「死ぬとかいうな」
きっと。
妖怪と人間じゃ……いつの日か、別れが来るだろうけど。
でも。
「言霊を信じてるの?」
「お前が言ってたんだろう」
いつだったかの教祖騒ぎを思い出す。
あの時は本当に散々な目にあった。
「……そうだね、ボクも信じてるよ」
「……」
「じゃぁ」
「ん?」
「春華に会えて良かった」
「勘太郎?」
ふわりと。
華がほころぶように笑って。
「会えてよかった」
「そう、だな」
認めてやろう。
確かに。
自分も勘太郎という人間に会えて良かった。
「だから、一緒にいよう」
「………」
「ずっと、じゃなくてもいいから」
「勘太郎」
「ただ、一緒にいよう」
ぎゅっとオレの服の袖を掴み。
ただ静かにそれだけを言うから。
「好きだよ、春華」
「あぁ」
頷き、引き寄せ押し倒す。
その拍子に筆が、せっかく書いていた紙を黒く汚す。
「………っ」
「あ〜ぁ」
「……せっかく書いてたのに」
「………こっちに集中しろって」
やはり気になるのか、身を起こそうとする勘太郎をきつく抱き込み、耳元に唇を這わす。
快感に慣れた身体はその動きにぴくりと身を震わした。
鎖骨をきつく吸い上げてやれば、赤い跡が花びらのように付く。
「良い色…」
「目立つところに付けないでよ、春華…」
甘く掠れる声音がそう言い、そろりと背中に白い指先が這う。
オレの欲を煽るようにそっと這わされる指の動きに苦笑を零す。
こいつはオレをその気にさせる天才かもしれない。
「背中、痛くないか?」
「少し……ね」
そう言って顔をしかめる勘太郎を抱き上げる。
「ぇ…?」
「これなら痛くないだろう?」
下から見上げるようにして勘太郎を見つめれば、すごく真っ赤になった勘太郎が此方を見ていた。
座ったオレに、勘太郎が向かい合うような格好で座っていて。
何か言われる前に、慣らすための指先を秘処に入れる。
「………っぁ!」
抗議のためか、肩に食い込む指先が肌を抉る。
身体に走る痛みもどこか甘ったるい。
どこまでもこいつに慣らされてしまってる自分がおかしい。
「……力、抜けよ?」
自分の指先に絡みつく熱い内壁の感触に喉が鳴る。
焦る気持ちを何とか堪えて、慣らす指先を徐々に増やす。
「勘太郎……」
「春華……もう……!」
ずるり。
と指先を引き抜き、自身をあてがう。
熱い感覚にくらりと思考が痺れた。
ぐっと押し入れば、もう何も考えられなくて……。
狂ったようにきつく引き寄せ、壊すように激しく内をすりあげる。
「ぁ……っ……!」
苦しげな勘太郎の声も。
肩を縋るように掴む指先も。
何もかも現実感がなく。
このままでは、きっと勘太郎は一人では起きあがることもできないだろう。
「…春華…」
名を呼ばれる。
貴方に会えて良かった。
二人で作り出す熱さの中、そう思った。
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2004.11/29 如月修羅
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