飴の正しい食べ方(イチゴ飴)ちび勘
かりり。
かりり。
「…勘太郎」
かりり。
かり。
「勘太郎!」
「なぁに?はるか」
ことんと首をかしげ、勘太郎が春華を見上げる。
勘太郎の手には、赤い巾着。
そこから何かを取り出して一心不乱に食べている。
「何を食べてるんだ?」
「あめ!!」
「飴…?」
こくんと頷き、勘太郎の白い小さな指先が赤い巾着の中にと消える。
「これ!ヨーコちゃんにもらった!!」
ピンク色の丸い物体を取り出し、笑う。
「勘太郎…飴は噛むものじゃないぞ?」
「えっ?!」
春華のその言葉に、勘太郎が驚いたように声をあげた。
「舐めるものだろう…」
「かんじゃだめなの??」
「駄目ってものでもないけどな…でも飴は舐めるものだぞ?」
うん?
とよく分からないのか首をかしげる勘太郎に、春華は指先を赤い巾着にと伸ばす。
「こうやって」
ころり。
とピンクの丸い飴を取り出し、口にと入れる。
「口の中に転がして食べるものだ」
「うん…?」
一緒になって口の中で転がしながらやはり首をかしげる。
「……苺味か」
「うん♪ヨーコちゃんが昨日まちに行ったおみやげにくれたの!」
「よかったな、勘太郎」
「うん!…こんどぼくもまちに行きたいなぁ…」
「……」
少しさびしげに呟かれた言葉に、春華が頭を撫でてやる。
「もう少し大きくなったら連れて行ってやるよ」
「ほんと?はるか!」
はしゃぎうれしそうに飛びついてくる勘太郎を抱きしめ、微笑む。
「だから、勘太郎」
「…?」
「もう、飴はおしまいだ」
「え〜!!」
「これ以上食べたらご飯食べれなくなるぞ?」
「う〜」
「飴は沢山食べると虫歯になるからな」
「………」
むすっとした勘太郎を見つめ、春華がくすりと笑う。
「痛いのは嫌だろう?」
「………わかった」
「よし」
ぽんっと頭をたたき、勘太郎を抱き上げる。
「まだ街には連れて行ってやれないが…上から見てみるか?」
「うん!!」
さっきまでむくれていたのが嘘の様に満面の笑みを浮かべる勘太郎に、春華もつられたように笑みを浮かべた。
2005.2/14 如月修羅
月見酒
いつだったか。
月を見上げながら春華と話をしたことを思い出す。
あの時もこうやってお酒を飲んでいた。
「あ〜美味し」
「お前…ザルか」
「春華だって強いでしょ」
「…………」
「酔うと酒乱だけど」
「……」
何も言わず酒を飲む春華に笑う。
「ヨーコちゃん寝ちゃってるね〜」
三人で飲んでいたのだが、ヨーコちゃんが先につぶれてしまったのだ。
自分の足元で気持ちよく寝ているヨーコちゃんの髪を撫でる。撫でていると、ヨーコちゃんが気持ちよさそうに微笑んだ。
「あとで連れて行ってあげて、春華」
「あぁ…」
撫でていた手を止め、ちらりと月を見上げる。
「…美味しそうに飲むな。本当に」
「ここの地酒美味なんだもん」
「……」
「飲む?春華」
「…ん?」
「ボク、動けないからこっち来て」
手招きし、春華を呼ぶ。
興味をそそられたのだろう。立ち上がり近寄ってくる。
「はい」
酒を差し出したところで、ふと思い立った。
「………?」
差し出した酒を、春華が取る前に遠ざける。
「なっ…」
「………」
ぐいっと胸元を引き寄せれば、バランスを崩した春華が倒れこんでくる。
「ふふ」
「勘太郎、お前は…」
「ヨーコちゃんが起きるよ、春華」
上手くヨーコちゃんを避けて倒れこむ春華に笑みを浮かべ、再び引き寄せた。
「ボクから…あげるよ」
「………」
「飲んで、春華……」
重なりあう唇から甘い吐息がこぼれる。
「……悪くはないな」
「……」
指先が口元を拭っていく。
「…もう一回飲む?」
白い指先を捕らえて囁けば、ニヤリと笑う。
その仕草は色っぽく。
「…後でな」
「そう…連れて行ってくれる?」
「あぁ…」
ヨーコちゃんを抱き上げ、部屋を後にする春華を見送る。
「…やっぱり、美味しいよねぇ…」
再び酒を傾け、呟いた。
2005.2/13 如月修羅
大事件(風邪)
ヨーコちゃんが風邪を引いた。
家事のほとんどをヨーコちゃんがやっていた一ノ宮家では大事件なのだ。
「う〜ん…なんか久しぶりに家の中片付けてる気がする」
肩に手をやり首を動かしながらぼやくと、箒片手に春華が此方を向いた。
「ぼやいてる暇あったら手を動かせ」
「嫌だなぁ春華。ボクの分担は終わってるよ〜」
「なに?!…どうせ“お友達”にたのんだんだろ!」
じろりと睨み、その後満面の笑みを浮かべた。
「ボクがそんなことするわけないだろ?」
「自分の胸に手を当ててみろよ…」
ボソリ。
と呟く春華に目線をあわせれば首をすくめた。
「もともとヨーコちゃんが来る前はボクがやってたんだよ」
「……え?」
「なにさ〜」
「…いや」
歯切れの悪い春華に笑いをこぼし、台所に入る。
「ヨーコちゃんにご飯作らないと」
春華も手伝ってと呼べば、箒を置き台所に入ってきた。
「手際いいな」
「一応ね。春華が今度寝込んだときにでも作ってあげようか?」
春華も十分手際よく材料を用意してくれながら笑いをこぼす。
「やめてくれ。代価がおおきそうだ」
「やだな〜わかってんじゃん〜!せっかくたかろうと思ってたのに〜」
「……お前は女か」
「失礼な!」
「女よりたちが悪いか」
「……確に悪いかもね」
「素直に認めるなんて気持ち悪いぞ?熱でもあるのか?」
「勘弁してよ。認めても認めなくてもなんでそうとしかとれないわけ?」
「………」
何も言わないボクに、春華が腕を伸ばしてくる。
素直にそれを受けとめれば、まるで子供をなだめるように口づけられる。
「春華、ボクは子供じゃないよ」
「………?」
「……大人なんだからこうやってご機嫌とってよ」
舌先を春華の口許にはわせ、微笑む。
「確に子供はこんなことしないな」
絡まる舌先に喉を鳴らせば、深くなる口づけ。
名残おしくて何度も口づけあう。
「………続きは夜な」
ゆっくりと離れ、宥めるように頬に口付けられた。
瞳を閉じ頷く。
「……そうだね。ヨーコちゃんに持っていかないと」
ほどよく煮えたお粥を目にし、微笑むと春華も苦笑を浮かべた。
2004.12/24 如月修羅
アゲハ蝶(蝶々)
ひらり。
ひらり。
黒い蝶が舞い遊ぶように飛んでいる。
「見てるの?」
見るともなしに黒い羽を持ったそれを見つめていると、後ろから声がかけられた。
「勘太郎…」
「……おいで」
指先を黒い蝶に伸ばす。
しかし、ヒラリと身体を指先から逃がし、再びヒラリヒラリと舞い遊ぶ。
「逃げられちゃった」
「日頃の行いが悪いからだな」
「………そう言うこというの、どの口かなぁ?」
ぎろりと睨み付け、口元を伸ばそうとじりりじりりと、にじり寄ってくる勘太郎の頭を笑いながら撫で上げる。
「……春華?」
「ほら」
指先を伸ばせば、先ほどは逃げてしまった蝶が近寄ってきた。
「うわ〜春華、蝶々までタラシこんでんの?!」
「蝶々までって……」
「レイコさんに…あとは…ヨーコちゃんのバイト先でこの間、綺麗な女性タラシこんでたよね」
「?!」
「ふふふ…みてたよ、この間」
ボクに知らないことなんてないのさ!
と自信ありげに言い、そっと指先をアゲハ蝶に伸ばす。
今度は逃げない黒い蝶。
「春華が好きなのかな」
「…え?」
「春華が魅力的なのかな」
「勘太郎?」
「でもね、ボクは春華が…」
はっとそこで口を噤み、慌てて立ち上がる。
その動きに驚いたアゲハ蝶がヒラリと舞い、今度はどこか遠くへ行ってしまった。
「勘太郎!」
手を伸ばせば、泣きそうな瞳で此方を見て……。
でも。
嘘をつくことが上手な主人は、すぐに微笑んだ。
「ごめんねぇ…春華。せっかくタラシこんでた蝶々逃がしちゃって☆」
「タラシこんでねぇ…」
「あはは。……ボク、もう行くよ」
そう言って先ほどの蝶のように、ヒラリと身を翻し部屋を出ようとする。
「原稿、まだやってなくてさぁ……」
ここで引き留めても。
きっと答えは返ってこない。
「レイコさんに怒られないようにせいぜい頑張るんだな」
「か、可愛くない……!!!!!」
笑いながら言えば、ムッとしたように口を尖らせる。
その仕草は可愛らしく。
近付き額にと口付けた。
「頑張れよ、勘太郎?」
ぐっと言葉に詰まった勘太郎を見つめ微笑めば、少しだけ口元を緩め笑う。
「たまには……ね?」
口元に白い胴衣の袖口を当てて、どこか嬉しそうにしている。
「ヨーコちゃんにも怒られないように」
「たまにはなのか…」
「そう、たまには」
あはは。
と声を上げて笑いながら今度こそ部屋を出ていった。
―――ふと。
窓の外を黒い羽を持った蝶がよぎった気がした。
2004.12/3 如月修羅
大切な人
「は〜るかっ!」
「?!」
ぴょん!
と寝てる所に飛び乗られ、夢の中をさ迷っていた思考が一気に目覚める。
「てっめ…!」
「やだ〜春華怖〜い」
ケラケラ笑いながら勘太郎が、鬱うつとしたものを漂わす春華をつつく。
「何度呼んでも起きない春華が悪い」
「だからって飛び乗ることねぇだろ!!」
「なんか気持ちよさそうだったから」
「何でそれで飛び乗るんだ!?」
「春華の上に乗ってみたかったんだもん!」
むぅ…と怒る勘太郎を見つめ苦笑をもらす。
「何時も乗ってんだろ」
「確かに飛ぶ時は背中に乗るけどさ」
「それに…昨日だって乗ったろ?」
「………?」
昨日?と不思議そうに首を傾げていた勘太郎が、一瞬にして真っ赤になる。
「あっ…れは…!」
「なんだ?」
笑いながら問いかえせば、バシバシと肩を叩いてくる。
「エロ天狗!」
「なんとでも」
ぐいっと勘太郎の体を抱き寄せ、瞳を閉じる。
「春華、寝るの?」
「……………」
「………しょうがないなぁ」
ふぅと溜め息つき、勘太郎も少しだけじっとすることに決めたようだ。
特になにがあるというわけではないけれど。ただ、この何てことない幸せな日常を作りだすことが出来るのは…。
貴方は私にとって何よりも大切だから。
貴方は私にとって大切な人。
2005.5/24 如月修羅
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