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絶対の約束(I want to protect something) 微裏

髪を掻き上げる仕草。
触れる指先。
ガラス細工が好きで。
鯖が嫌いで。
ボンクラ主人。と罵っても、最後は必ず助けてくれる。
不器用で優しい。

知ってるよ、君のことならなんでも。

夜中にふと目を覚ませば、隣では春華が自分を抱き締め眠っていた。
どうやら昨夜春華に求められるまま乱れ、そのまま春華の布団で一緒に寝てしまったらしい。
情後の気怠い体を起こし、隣りに眠る春華を覗きこむ。
こんな近くで眠る春華を見るのは…そうそうない。
クスリ、と笑みを零し春華の前髪を掻き上げる。

整った男らしい顔。
しなやかな筋肉がついた肉体。
世の女性を虜にして止まない、甘やかな美声。
昨日、煽られ乱された指の動きを思い出す。
耳元で囁かれた、少し息の乱れた声音も。
きつく抱き締めてくる腕の強さも。


手荒な愛撫。
でもその中の優しさ。
想い。

その何もかもが自分の、モノ。

前髪を掻き上げていた指先を、そのまま唇にと這わす。

「この唇…だよね」

ヨーコちゃんに特訓されたせいだけども、世の女性を虜にする台詞をこの唇は喋る。
ボク以外をくどく、その唇。

「………嫌いだよ」

ボク以外を見る春華も。
ボク以外をくどくその唇も。
なにもかも。

「だいっきらい」

ぐっと、強く春華の唇を押せば、寝ていられなかったのだろう。
春華の眉が寄せられ、恨めしそうに此方を見る瞳。

「てめぇ…」
「あれ、起きちゃった?春華」
「さっきから聞いてれば好き勝手……」
「聞いてたの?人が悪いな、春華も」
「あのな、勘太郎…」
「あ、違うか。妖怪が悪い…か。春華人間じゃないもんね」

にっこりと笑って言えば、春華が苛立ったように肩を掴んできた。

「勘太郎!」
「あのね、春華…」

肩を掴むその指先を払いのけながら、ゆっくりと起き上がる。

「嫌いなんだよ、ボクは」
「……………っ」
「ボクの思い通りにいかない事があるなんて」
「………我が儘だな」

吐き捨てるように言われた言葉に満面の笑みで頷く。

「そうかもね。でも、人間欲張りの方が上手く世間を渡っていけるもんだよ」
「……………」
「春華にはわかんないかもね」
「どういう意味だよ」
「妖怪の方がときに純粋ってこと」
「………スギノにも言われた…な」

そう言って視線を遠くに彷徨わせる春華の顔にと指を伸ばす。
そっと頬を包み込み、顔を近づけ…そのまま触れるだけの口付けを春華にと与える。

「あのね、春華」
「………なんだ?」
「春華はボクだけを見てて」
「……………」
「ボクだけを感じてればいいの」
耳元で、小さな子供に言い聞かせるように囁く。
春華は何も言わずただ…腕を背中にと回してきた。

これは了承なのだろうか。


………それとも、拒絶なんだろうか。




「春華」

名を呼んでも微動だにしない。
ただ…静かに時が流れる。
流石になんの反応もない春華に疑問に思い、顔を覗き込もうとした瞬間、ぐっときつく抱きすくめられた。
「我がままな主人だな」
ふ、と笑みを零し春華が耳元に口付けてきながら言う。
「そう?」
「でもそんな我が儘なら聞いてやらないでもない」
「……………」

あぁ…。

と悲鳴にも似た声が胸の底から沸き上がる。

なんて優しい生き物なのだろう、と。

こんなにも穢れた想いを持つ自分の願いを叶えようとするなんて。


「春華はボクといたらダメになるかもね」
「………勘太郎?」


でもごめんね。
ボクは君を離さない。



絶対に。
どんなことをしても。




そのかわり、何があっても君はボクが守るよ。



それは言葉にされない、絶対の約束。

2005.4/22 如月修羅

隣にある幸せ(一緒) 微裏

「…寝たの?春華」
小さい声で…自分の膝の上に頭を乗せ眠っている春華に話しかける。
ピクリとも動かない春華に笑みを溢した。
「……」
綺麗な顔。
黒い艶やかな髪。
指先でその艶やかな髪を掬いあげる。
「………っ」
「…勘太郎?」
目をすがめ、春華が此方を見る。流石にこんな近くで触っていたら気付くだろう。
捕まれた手首が熱い。
「…?」
「綺麗だなって思って」
「なんだ、それ…」
欠伸を堪えながら起き上がる春華を見つめる。
「………お前、怖い」
「は?」
「笑ってるし」
「あぁなんだ。…幸せだからね」
「…?」
「一緒にいれて」
その言葉に何とも言えない表情を浮かべた春華に微笑む。
「………っぇ?」
グルリと風景が変わる。
春華に押し倒されたんだ…と認識する前にむさぼるように口付けられる。
「ちょっ…はる…っ!」
「…うるさい」
きつく耳元を噛まれ、血が滲むのが分かる。
「…痛いってば!」
「痛くしてる」
きつく首筋を吸われ、眉をしかめる。
チクリ、チクリと残される、赤い所有の証。
自分より年上なのに、子供みたいで。

可愛いなぁ…って。

思う。

「あはは」
笑い声を立てると春華が顔をあげた。
「…お前、こんな時に…」
ガクリ。
と肩を落としながら言われ、ポンっと肩を叩く。
「だってさぁ〜可愛いなぁって思って」
「………」
ムッとしたらしく離れて行く春華に、逆にしがみつく。
「ごめんってば〜ちょっと思っただけなんだよう」
着物をはだけ、春華が残した赤い肌を見せ付けるように引き寄せる。
下から上目使いで見れば、喉元が上下するのが分かり、瞳をすがめた。
「………っ」
「春華…」
「勘太郎…」
掠れた声音が耳に心地よい。
煽るように指先を春華の喉元に這わす。
背中に絡む強い力も。
何もかもが幸せで。

「好きだよ…春華」

自然に零れた言葉に笑みがこぼれる。

「幸せってこういうこと言うんだよね、きっと」
「勘太郎?」
帯を解かれ、だんだん素肌を晒されるのに身を捩ってもそれは本気じゃなく。
戯れのように指先を動かす。
「もっと近くにおいでよ」
「……………どうした?」
いつもはもっと鈍いのに。
こんな時だけ敏感で。


やだな。
ただ、本気で幸せなだけなのに。
嬉しいだけなのに。

伝わってないの?
春華には。


「ボクは幸せなだけ」
「……幸せ」
噛み締めるようにそういう春華に頷く。
「春華の側に居て。春華が側にいて。……こうやって一つになって」
こうやって…と言いながら唇を春華の耳元に滑らせれば、肩を掴まれ引き剥がされる。
「春華」
「……お前は」
「ん?」
「……なんでもない!」
吐き捨てるようにそう言い、きつく引き寄せられる。
「春華?」
「もう喋るな」
「……ん」
口付けられれば、抵抗もなく受け止める。

幸せだよ。
春華と一つになれて。
側にいて。


「………春華はどうなのかな?」

こそりと呟いた言葉は、熱い吐息の中に混ざり合い、春華の耳には届かなかったようだ。

2004.12/7  如月修羅

水に映る月(温泉) 微裏

カラカラ。
音をたてドアを開けながら、口を開く。
「うわ〜温泉白いよ!春華!!」
「子供じゃないんだから騒ぐな、勘太郎」
やれやれ…というように呟かれた言葉に笑みを零し、春華の手を引く。
「それにしても…、春華が一緒に入ってくれるなんて思わなかったよ」
「たまには…な」
そう言い笑う春華に、首を傾げながらも微笑む。
「お金貰う他にこんな温泉は入れるなんてラッキーだね、春華♪」
依頼主が、よほど怪奇現象がなくなったのが嬉しかったのか…宿の温泉を貸しきりにしてくれたのだ。簡単な祓いだっただけに少し良心がとがめたが、だからといって断る理由などあるはずもなく。
じっくりゆっくりと温泉に浸からせて貰うことにする。
「あぁそうだな…」
満足げに春華も頷き、肩までゆっくりと浸かっている。
「春華!」
「なんだ…」
此方を向いた春華の目の前でそっと掌にお湯を掬う。
「見て、水に月が映ってる」
「………」
「綺麗だね」
「そうだな」
小さく笑みを零し、春華が引き寄せてくる。
「たまにはのんびりとお湯に浸かるのも良いね」
「お前にしては珍しいな」
「失礼な〜!ボクだってたまにはこうやって…景色を眺めながらお湯に浸かることぐらいあるよ」
肩まで湯に入り、そっと春華の指先に指先を絡める。
「これぐらいなら春華だって怒らないでしょ?」
「……これだけでいいのか?」
どこかイタズラめいた口調で言われ、首を傾げる。
「春華?」
「もっと先まで…?」
ちゅっと音をたて、絡めた指先に口付けられる。
何も身につけていない肌がかっと真っ赤に染まったのが、自分でも分かった。
「ばっか…!ここは温泉だよ?!」
「別に?」
さらりと言われ、唇が指先から手首にと移動する。
「別に、じゃなくて〜!!」
「イヤなのか?」
「のぼせちゃうでしょ!」
「ここじゃないならいいのか?」
「ここじゃないならいいよっ………って、え?!」
誘導尋問のように春華に誘導され頷いたところで我に返る。
「いいっていったな、勘太郎」
満足げに笑い、そっと躰を離される。
「〜〜〜〜〜〜!!!」
ばしゃばしゃと水を叩けば、水に映った月がゆらゆらと揺れる。
「………」
それが綺麗で。
暴れていたのを止める。
「勘太郎?」
「もったいないから止める」
「なにがだ?」
「水に映る月も綺麗だし…」
それに。
「たまにはのんびり春華と温泉浸かってたいしね」
「そうか」
再び掌に水を掬い、月を映し出す。
「あんなに遠くにある月も、こうやれば手に入るね」
「………勘太郎」
「でもね、こんな小さな月よりボクは大きい月の方が好きなんだ」
ぱしゃりと音をたて水を元に戻し、春華の肩に寄りかかるようにして座り直す。
「だからまたボクを乗せて空を飛んでね、春華」
「気が向いたらな」
「酷いな〜!!」
「その気にさせればいいだろう」
にやりと笑って言われ、頬を染める。
「スケコマシ〜」
「そのスケコマシが好きなのは誰だよ」
「〜〜〜〜〜!!!」
声にならなくてじっと春華を睨み付ける。
「それだと逆効果だぞ?勘太郎」
「〜〜っ!分かったよ、そんな春華が好きなのはボクだよ!!」
ふんっと顔を背ければ、振り向かされ口付けられる。
「せっかくゆっくり浸かってるつもりだったのに〜」
「どうせ今日一日貸し切りだろう…?」
ひょいっと抱き上げられ、春華の首筋に腕を回す。
「またあとで一緒に入ろ?春華」
「言われなくても…」
再び口付けられ、ゆっくりと瞳を閉じた…。

2005.3/22 如月修羅


記憶  裏

イライラする。
思い出せない。
空白。

あいつがオレの記憶の鍵を知っているという現実。
あの女。

全てがイライラする。





「春華?」
カタン。
と音をたて勘太郎が部屋を覗き込んでくる。
「………っ」


イライラする。
こんなにも思い出せないと言うことが。
昔の自分と違うと言うことが。


"モドカシイ"


「抱かせろっ…!」
ぐっと勘太郎の腕を掴み、そのまま部屋にと引きずり込む。
驚いたように見開かれた赤い綺麗な瞳が、美しいと思った。
壊してやりたいと思った。
何もかも。


破壊してやりたくなった。


「っ…春華!!」

名を呼ぶ甘やかな声。
ぎりぎりと深く勘太郎の中にと身を沈め、そのまま抉るように動き出せば、勘太郎がつらそうに息を飲む。

美しいと。
苦しみに歪む姿が美しいと思う。


なぜこんなにもいらつくのだろう。
苦しいのだろう。

「お前なら…オレを助けてくれるのか…?」
「………春華」

そっと頬に触れる指先。
その感触に瞳を閉じる。

愛おしい存在。
なのに破壊してやりたくなる本能。
きっとこいつはそれでもいいと、この体を差し出しているのだろう。
オレに抱かれているのだろう。

あぁ…イライラする。

何もかも。

取り巻く全てが。



思い出せない記憶にここまで翻弄される己が滑稽だと知っていながらも、どうしようもなく。

勘太郎の内で精を吐き出し深く息をする。
きつく抱き締め、耳に噛みつきながら囁く。
「足りねぇ…もっとやらせろ、勘太郎」
「……ふぁっ」

再び勘太郎の体を揺らし、声を上げさせる。

イライラする。
思い出せない記憶。
思い出した記憶。

混乱するオモイ………。


ただ確かなものは、この腕の中で妖艶に喘ぐ勘太郎という存在だけ。


2005.5/13 如月修羅


怪我

ぴっ!
そんな感覚と共に、指先に鋭い痛みが走った。
レイコさんから寄越された山のような資料。
それを片付けつつ、内容を整理していたのだが、どうやら紙で指先を切ってしまったようだ。
せっかくやる気になっていたのに、勢いがそがれる。
「な〜んかやる気無くなっちゃったなぁ…」
ぽつりと呟き、ばさりと資料の束を机に放り出す。
じっと指先を見れば、ぷくりと赤い玉になって血が吹き出ている。
「………ヨーコがそろそろ勘太郎がサボり出す頃だろうっていってたの、当たってたな」
突然の春華の声に、驚き振り向く。
そこには呆れ顔の春華が立っていた。
「違うよっ!指切ったからちょっと手当しようと思ってただけっ」
「………切った?」
不思議そうに言う春華に、証拠を見せようと指先を近づける。
「………っ?!」
「………甘い」
血を舐めとり、春華が笑う。
「きゅ、吸血鬼じゃないんだからっ!!」
「きゅうけつき?」
「西洋の…魔物だよ。血を好んで吸うんだ」
「……そんな魔物がいるのか」
ぞくりと背筋に走った快感に気付かなかった振りをし、春華から指先を取り返す。
「もうっ。春華の馬鹿っ」
「……お前、感じてたろう?」
「?!」
にやりと笑う春華に言葉がでない。
上手くごまかせたと思ったのに。
「物欲しそうな顔してもダメだ」
「……し、してないよ!」
「ヨーコに怒られるからな」
「してないってばっ!ていうか、押し倒しつつそんなこと言っても説得力ないからね、春華!!」
「最後まではしないさ」
「ちょ、ど、どこまでするきー!!!!!」
「したいとこまで」
「そ、それのどこが最後までしないって言う台詞にいきつくの!」
慌ててばんばん春華の肩を叩いて抗議すれば、少しいらついたように春華が此方を見る。
「お前が悪い」
「なんで」
「怪我、なんかするから…」
「ちょっと切っただけだよ?」
こんなものは怪我の内にも入らないんじゃないだろうか。
なのに、なぜ。

「もうオレはお前が傷つくのを見たくない」

春華の言葉に、泣きそうになった。

それを見られたくなくてきつく春華に抱きつけば、春華も抱きかえしてくれる。

「ヨーコちゃんとレイコさんに怒られる」
「レイコはどうにかしてやるよ」
「それは、それで…ダメ」
「なぜ」
「春華はボクのものだから」

そう言って笑って。

「書く気になったから、ちょっとだけ…待ってて?」
「………お預けかよ………この状態で」
「ちょっとだけだってば」

ちゅっ。
と春華の頬に口付け、項垂れる春華をそのままに再び机にと向き直った。

2005.5/16 如月修羅

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