キミハワタシノモノ(This is mine)
もてるよねぇ…。
チラリ。
と隣を歩く長身の男を見上げる。
スーツ姿と巫女装束姿の二人連れは良くも悪くも人目を引く。
それだけじゃないのは百も承知で。
きゃぁきゃぁと騒ぐ女性の声に、気付いているのかいないのか。
隣を歩く春華の表情は何一つ変わらない。
「……なんだ?」
「別に」
ボクの視線に気付いたのか、視線を落とす。
自分に春華の視線が戻ってきたことに安堵する。
「いい天気だよね〜」
「あぁ」
素っ気ない返事でも。
関心がボクにあると分かっているから嬉しくて。
「………わっ」
石に躓き、そのまま前のりに倒れ込む。
「……っぁ」
腰に手を回され、抱き込むように引き寄せられた。
途端。
“きゃぁ!”
と黄色い悲鳴が女性達から零れる。
妬みを含んだ声。
視線。
……少しだけの優越感。
こんなにも周りを騒然とさせる男が、自分のモノだという歪んだ満足感。
どんなに名前で拘束していても。
春華は春華のモノであって自分のモノではないはずなのに。
「…ぇ?」
ぐっと近くなる顔に驚き目を見開く。
「…んっ」
そのまま口付けられる。
――― …………!!!
なんで、こんな所、で?!
パニック寸前の思考でバタバタと暴れ、春華から離れた。
「なっ、なっ、なっ……!!!」
「お前が驚くの、初めて見た気がする」
「ちょっ……春……!」
「どうせみんな、お前が女だと思ってるさ」
「いや、ていうか!!それもむかつくんだけど……なんでこんなとこで……!!」
「……」
さっきまで堂々と公の場であんな行動を取ったとは思えないほど無口になり、歩いていってしまう。
流石にこんな所で一人残されたくない。
慌てて追いかける。
「春華?!」
「…見てたんだ」
「何が?」
「……お前を」
「誰が?」
要領が得ず聞き返せば、春華が再び口を噤む。
「………男達が」
「はぁ?!」
数分黙った後に続いた言葉に思いっきり声を上げる。
「何それ」
呆れたように言えば。
「お前はもう少し容姿を気にしろ」
と逆に言われる。
「なんで?」
「自覚した方がいいぞ?お前は」
「…え〜?」
「……」
はぁ。
と溜め息つかれ、自分が悪いわけではないハズなのに罪悪感。
「……で。なんでそれがキスすることに繋がるのさ」
「……手っ取り早い」
「何が?」
「お前がオレのモノだって示すのに」
「………っ!!!」
ぐっと言葉に詰まり、春華を見つめる。
「勘太郎?」
「……ふふ」
「……?」
「かえろ、春華」
知らず、笑みがこぼれる。
するりと指先を伸ばし、春華の指先に絡ませれば、力強く握り返される。
キミはワタシのモノ。
2005.1/17 如月修羅
バイト
「腕いった〜い!!肩も痛い〜!!身体中いたい〜!!」
持っていた筆を投げ飛ばし、ごろんと畳に寝転がった。 長時間同じ体勢で居たせいで身体中変な風に筋肉が緊張している。 天井を見上げれば、少しほこりっぽく。 そういえば天井を掃除する事なんて滅多にないなぁ…と思った。 「掃除、掃除ねぇ…」 原稿に掛かり切りになればそれも難しく。 やっと原稿も終わったのだから掃除をしようかとも思うが、だからといってこの体の状態で掃除をする気にもなれない。
「春華〜」
後ろを見なくても分かる。 春華が近くにいる気配。
「………なんだ?」
ヨーコちゃんに様子を見るように言われたのだろう。 普段あまりこの時間帯に起きていないのに起きていて。 「ちょうど良かった。お願いがあるんだけど」 「………………」 「そんなに悪いお願いじゃないって!!」 信用ならないとばかりに此方を見ている春華に苦笑を浮かべる。 「肩もんでくれない?すごく肩凝っちゃって」 「ふざけるな」 あっさりとそう言い、出ていこうとする春華に満面の笑みを浮かべた。 「交換条件」 「………」 襖に手を掛けてはいるが、動こうとしない春華にとっておきの一言を。 「僕のお願い聞いてくれたら、春華のお願い一つだけ聞いてあげるよ」 「一つだけって釘指すのがお前らしいよな…」 そう言いながらも悪い条件じゃないと思ったらしい。 くるりと春華が此方を向き、歩いてくる。 「バイトみたいなものだとおもってさ…肩もみしてよ、春華」 「………バイトねぇ」 「そうそう。バイト!お互いの利益で成り立ってるでしょ?」 「………」 「で、春華のお願い事は?」 「………」 ちょっと首を傾げ、困ったように眉を寄せる。 なんというか…普段あまり見れないその行動が可愛らしく。 得した気分で見ていると、春華がにやりと笑った。
「身体中痛いってさっき言ってたよな…?」 「……そんな前から聞いてたの」
嫌な予感がし、じりりと後ろに下がれば、手首をぐっと掴まれる。
「身体中念入りにマッサージしてやるよ」 「それってお願いじゃないじゃないか!!」 「………お願い、だろう?お前の体でオレを満たしてもらうんだから…」 「…………?!」 「一石二鳥だろう、勘太郎」
それは。 本当にそうだろうか…っ?!
「あ、明らかにボクだけの負担じゃない?!それ」 「優しくしてやるよ」 「春華の優しくは全然優しくない〜!!」
手首を引き寄せられ、口元に口付けられれば体の力が抜けた。
「勘太郎…」
名を呼ぶ声に、苦笑を漏らし首筋に腕を回す。 「優しくしてくれなきゃ怒るからね、春華」 「分かってる…」
あまり信用ならないその言葉だけど、騙されてあげることにし瞳を閉じた。
2005.5/13 如月修羅
漆黒(漆黒の羽)
綺麗な羽だなと思う。
漆黒の羽。
美しい、美しい存在。
「春華」
強い、そして、残酷な―…。
「春華」
「なんだよ」
「別に〜呼んでみただけ♪」
「馬鹿じゃないのか?」
「いいじゃん〜呼ぶくらい」
「よくない」
「なんで」
「うるさい」
「酷い!!」
「いちいち名前を呼ばなくたって側に居るんだからいいだろう?!」
むすっとした表情で此方を見る春華に笑みを零す。
確かに同じ部屋に。
同じ場所に。
すごく近くで。
「そうなんだけどさ〜なんかね、呼びたくなって」
「あ〜もううるせぇ」
「………春華!」
バサリと羽を広げ、春華が窓から外に出る。
「行っちゃうの」
小さく呟いた言葉に、春華が不思議そうに此方を見る。
「何を言っている?」
手を差し伸べ、春華が口を開く。
「外に行きたかったんだろう?」
「………え?」
「…違うのか?」
あれ?というように首を傾げる春華に、笑みがこぼれる。
綺麗な、綺麗な漆黒の羽。
闇を写し取ったかのようなその漆黒。
強く、残酷な…。
でも。
優しく、己を満たす。
まだ、気付かないでいて。
君よりも深く、罪深いボク自身を。
美しい君にボクは満たされる。
2005.3/30 如月修羅
本当の願い(言霊)
君が好きなんだ。
沢山の嘘をつくし、意地悪なんかもしちゃうけど。
これは本当。
君が大好きなんだよ。
何回言えば信じて貰えるかな?
確かに、いつもの言動を聞けば信じてくれないのもわかるけども。
大好きだよ。
これでも君が傷つかないように細心の注意を払ってるつもりなんだけど?
信じてくれないんだね。
いいよ。 別に。
それでもいいんだ。 そう言う風にボクのこと信じられなくしたのはボク自身なんだもの。
大丈夫。 信じてくれなくても、ボクは想い続けるから。
……………ねぇ、そろそろボクのことを好きになってきた?
あはは。言霊なんて使ってないよ、ボクは。 なぁに?何も考えられなくなってきたの?……でも残念。 今のボクたちの喉の形じゃ使えなくなってしまった力だよ、言霊って言うのは。
でも…もしかしたら言霊は生き続けてるのかもしれないね?
誰になんと言われようとも。 ボクはボクの願いを叶えるためにならなんだってする。
ねぇ春華。
早くボクのこと好きになって。
っていうかね、もう遅いよ。 君は逃れられない。
君はボクのことをきっと好きになるよ。
だってこれだけ言い聞かせてるんだもの。 何が本当で、何が間違ってるか…なんてもう考えられないでしょう? 大丈夫。
そのままでいい。
ボクのことを一番に想えばそれでいいんだよ、春華。
2005.3/31 如月修羅
ラムネ(ちび勘)
しゅわしゅわと喉を通る甘さ。
「………勘太郎」
瓶を両手で持ち、勘太郎が固まっている。
「まだ勘太郎には刺激が強すぎたんじゃねぇの?鬼喰い」
けらけらと笑いながら緑色の生物片手に笑うスギノを睨み付ける。
………妻であるむーちゃんは、さっきから手足をばたばたさせ、スギノから降りようと試みていた。
「むー」
「むーちゃんも飲みたいの?いいよ、俺のあげる♪」
むーちゃんしか見えていないスギノは、彼女が本当にして欲しいことに気付かず、強引に抱き寄せた。
そんな二人?を溜め息混じりに見つつ、動かない勘太郎の足下に跪き、同じ目線にする。
………確かに刺激が強すぎたかもしれない。
自分も最初にラムネを飲んだときは、喉を通る炭酸に、かなり驚いたのだから。
「………勘太郎?」
ぎゅっと瓶を握った指先は力を込めすぎて白くなっている。
そっとその手を包んでやれば、やっと目線が此方を向いた。
「はるかぁ…びっくりした」
ぱちぱちと瞳を瞬かせ、勘太郎がちょこんと地面にと座る。
「のどの奥がぱちぱちっていってた!」
「そうか」
「あまくて美味しいねぇ…」
うれしそうに笑いながら、ころころと中に入ってるビー玉を転がす。
「勘太郎、あまり瓶をふるな」
「………なんで?」
ことんと首を傾げる勘太郎に教えてやろうと口を開いた瞬間、さっきまでむーちゃんと戯れていたはずのスギノが顔を出す。
「勘太郎、ふるとな〜こうなるんだよっ!」
ぶしゅーっ!
という音と共に中からラムネが溢れ出す。
「?!」
「スギノっお前っ!!」
立ったままのスギノからラムネが勢いよく撒き散らされ、勘太郎とオレにと降り注がれる。
「っと、わりぃ…まさかこんなに出るなんて…」
あはは…と口元を引きつらせるスギノを睨み付ければ、頭を掻き首をすくめる。
「はるかぁ〜ベタベタする」
顔を袖で拭いながら、勘太郎が顔をしかめる。
確かに身体中、ラムネのせいでベタベタする。
「………あまい……」
拭うついでに手に着いたラムネを舐めとったのだろう。
勘太郎が呟く。
流石にこのままで居るわけにいかない。
「体…洗うか。スギノ、ここの掃除しておけよ」
「うんっ」
「………わかったよ」
「む〜♪」
ふてくされながらも、スギノがむーちゃんに促され承諾する。そしてひらひらと手を振った。
「あまいよ、はるか」
笑いながら差し出された指先にと唇を寄せる。
確かに…甘い。
ラムネの甘さ。
「なんだかラムネになったみたいだねぇ」
甘い香りを撒き散らしながら、勘太郎が笑う。
「はるか?」
何も言わないオレに首を傾げ、勘太郎が顔を覗き込んでくる。
「はるっ…?!」
そのまま抱き寄せ、口付ける。
驚いたように勘太郎がびくりと体を竦ませ、ぎゅっと瞳を閉じた。
「甘いな、勘太郎」
宥めるようにそう言い、頭を撫でてやればそっと勘太郎が瞳を開いた。
「………はるか?」
「ラムネ」
安心させるように。
笑い手を繋ぐ。
唇への口付けはあまりすることはなく。
とまどったように勘太郎が瞳を揺らすのを…気付かない振りをして。
まだまだ子供の勘太郎に。
………欲情した、だなんて。
「……気付かせるわけにはいかねぇだろう………」
とスギノが聞いたら最強の鬼喰い天狗がヘタレだっ!!と大笑いしそうな台詞を呟きつつ、勘太郎を連れ川にと向かった。
2005.5/2 如月修羅
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