01:鈴 02:胸の傷 03:桜 04:茶碗 05:ビー玉 ←押すとその場所に飛んでいきます。
その身を縛るモノ (鈴) 微裏 しゃらん。 そんな音をたて、白い指先がぱたりと布団の上にと投げ出される。 「やりすぎたか…」 覆い被さっていた状態から起き上がり、汗で張り付いた黒髪を掻き上げる。 己の下で強制的に気を失わされた勘太郎は、青白い顔のまま瞳を閉じている。 ふと息をしているのか心配になり、赤く色づいた唇にと指先をのばす。 若干息が乱れているものの、規則正しい息づかいに安堵する。 「生きてるのか心配になるな…」 こうやって眠っていると、ときに心配になる。 このまま居なくなるのではないかと。 そんならしくない考えに苦笑を漏らし、そっと勘太郎から身を離す。 今日は激情の赴くまま、勘太郎を抱いた。 何度求めても、このささくれだった感情が治まることはなく。 いつにもまして勘太郎を長い時間拘束した。 そんな己に勘太郎は、戸惑いに瞳を揺らめかせながらも、甘い声を上げその躰を差し出す。 恐ろしくはないのだろうか? 妖怪である己にその躰を差し出すということが。 ……最強と呼ばれる、妖怪相手に。 今はまだ…残虐性がないとはいえ、いつ…その本能に目覚めるともしれぬのに。 ふと布団の上に投げ出された勘太郎の指先が目に入る。 その腕には鈴が月明かりを受け、鈍く輝いている。 それは勘太郎を縛る楔。 己と勘太郎が本来は相反するものだという証。 どんなに側にいたって。 結局は人間と妖怪は相容れない。 「こんなに近くにいるのにな…」 さらりと指先を首筋にと滑らす。 そこは勘太郎の弱いところ。 赤い花びらがこれでもか…いうほど散りばめられている。 先ほどまでの、見ているだけで背筋がぞくりとするような妖艶な姿は鳴りを潜め、勘太郎が子供のように布団の上で穏やかに眠っている。 いつ、この本能が目覚めるともしれないのに。 恐ろしくないのか、この人の子は。 この白い身を切り刻み、赤い血を流させようと狙っているかもしれないのに。 「アイシテル」 口からでたその言葉は、どこか安っぽく空気にと溶けた。 勘太郎の手首に付いた鈴にと唇を寄せる。 例え鈴がこの腕からなくなったとしても、己と勘太郎との関係は変わらない。 でも。 相反するモノだといつも現実を突きつけてくるその鈴が憎らしく。 もう一度その鈴にと口付け、いつの日か引きちぎり壊すことに思いを馳せた。 2005.4/1 如月修羅 証。(胸の傷) 裏 ちろり。 と胸元の傷口を舐める、春華の赤い舌先。 普段は痛まないその傷を、癒すようにいつも念入りに愛撫する。 「…くすぐったいよ、春華…」 「………」 顔を上げさせようと、頭に手を掛けるけれども、巧く引き剥がせずに。 煽るような舌先は、激しくなるばかりだ。 「……ぁ!」 ぴくんと肩をふるわせると、なだめるように春華の舌先が肩を舐めあげた。 「ちょ……」 「……嫌なのか?」 「嫌って言うか……その……」 傷口が…。 と言おうとした唇を閉じる。 別に、何かあるわけではない。 鬼ではない春華が触ったところで痛む傷でもないのに。 「なんか……………」 何とも言えない心のわだかまり。 「……なんでもない」 躰を引き寄せ、肩口に顔を埋める。 「……勘太郎?」 「もう、来て……」 甘えるように呟けば、春華が笑った気配がした。 「どうした、勘太郎」 「いいでしょ、別に」 耳元で囁いてやれば、春華が喉をふるわせ笑う。 「お前らしくないな」 「だったら…ボクらしいってなにさ…?」 「確かにそうだな」 ぐっと腰を掴まれ、春華が入ってくる。 「……っぁ!」 「苦しいか?」 「大丈夫……」 ぎゅっと肩に回した腕を、絡める。春華の背中に爪を立ててしまい、慌てて力を抜いた。 「別に構わない」 「……でもっ」 力を抜いたと同時に布団の上に投げ出された腕を掴み、再び背中に回させながら、春華が囁く。 「お前になら傷つけられても」 「……春華っ!」 「お前の証をこの身体に残せ」 「………っ」 殺し文句だ。 「も…っはずかし……!」 「今更?お前の身体を…何もかも知ってるのに……」 身体を乱暴に揺すられ、再び背中にきつく爪を立ててしまう。 「どうやれば、お前が喜ぶかも」 「黙って…春華!」 「イクときの表情も…何もかも」 「………っ」 ふるふると首を振り、春華の言葉を聞かないようにしようとすればするほど逆に意識してしまって。 「馬鹿春華!」 「………」 「春華?」 「いつもの調子に戻ったな」 「………」 「この身体にどんな傷が残っていたとしても、オレには関係ない」 静かに囁かれる言葉。 「お前だから、愛おしい」 「……春華」 指先が傷口を撫でる。 その指先を捕らえ、口にと含む。 「……っ勘太郎」 「…大好きだよ、ボクの春華」 鬼喰い天狗が春華で良かった…。 その言葉は言葉になる前に、空気にと溶けた。 戻る? 華想(桜) はらはらと薄い花びらが舞っている。 「綺麗ね〜!」 「…ヨーコか」 肩口から顔を覗かせ、ヨーコが指先を伸ばし花びらを捕まえようとする。 「……」 「なに笑ってるの?春華ちゃん」 「あいつも同じことしてたと思ってな」 「………」 伸ばしていた指先を落とし、ヨーコが力なく微笑む。 「そうね」 そうだったわね。 と桜の木を見上げ、もう一度呟く。 「本当、我が儘な主人だったけど」 大好きだったわ と笑う。 「何年たつ?」 「……五十年」 月日がたつのは早く。 勘太郎が…死んでもうそれぐらいたつ。 桜の花びらに白い指先を伸ばし、雪のようだ。と笑った主はもういない。 舞い散るこの桜より儚く…美しく妖艶な主は。 今こうしてヨーコと二人見つめていれば、勘太郎がひょっこり顔をだしそうで。 「幸せだったわ」 ヨーコの言葉に我にかえる。 ヨーコは此方をみ、笑みを浮かべた。 「春華ちゃんもでしょ?」 愛する本当の意味を教えられた。 消えいく命の輝きをしった。 死んでもなお束縛されるつらさ、愛しさ、なにもかも。 全て。 全て勘太郎と言う存在に。 瞳を閉じれば、穏やかな笑みを浮かべた勘太郎がいる。 愛しさばかり募り。 消えない愛情。 そんな感情に未だ束縛されている。 「幸せ、だろう」 そんな己が不幸だとは思わない。 ………思えない。 進行形のその言葉にヨーコが力一杯うなずく。 「幸せよね」 ヨーコに笑みをこぼし、足元を彩る桜の花びらを掬いとる。 「春華ちゃん…?」 「餞に」 掬いとった花びらを木の根本に埋める。 ヨーコもなにも言わず隣で手伝う。 「こんなことしか…できないからな」 この花を好きだと言った、愛しい者のために。 「勘ちゃん…」 静かに花びらが降り積もる。 全てを埋めつくすように。 覆い被すように。 静かに花びらが降っている…。 2005.4/10 如月修羅 大切にしてくれますか?(茶碗) お気に入り(ビー玉) |