ハヤトの簡単クッキング 『今日は俺が料理するね』 ニッコリと笑いながら言ったのは俺。 それにどこかひきつった笑みを浮かべ頷いたのはキール。 それを見て、あとにひけなくなって。 「…っと」 そんなことを思い出しつつ、目玉焼きを作ろうと油を引いて玉子を落としたのだが。 「…あれ?」 少し黄身が崩れたがそれは自分のにしようと、もう一個落とす。 「うまくいった♪」 俺だってやればできんじゃん! と嬉しくなる。 「…あとは」 少し水を入れて蓋をして…と考えながらちょっと目を離したすきに。 「あっこげ…!」 とっさに。 …そうとっさに。 「………」 ぽんと皿に玉子を乗せる。 「次は…サラダでも作るか…」 ガサゴソ冷蔵庫の中を探る。 「サラダに茄子ははいんないよな…」 ポンっと手に持った物を見つめ呟く。 ……こちらの世界にキールがきて。 一緒に暮らし始めてから半年がたつというのに。 「俺ってばキールに頼りっぱなしじゃん…」 ごめんな。 と呟き、再び料理づくりにと意識を集中した。 「確か…ハヤト?」 「…………言うな」 思った以上に早くできたハヤトの料理に、キールが驚きつつ来てみれば。 「…………」 「………………」 「………」 「……でも、ね」 「気休めは…いいよ」 ぼそりと言えば、キールが苦笑を浮かべ、皿の並んだテーブルにとつく。 「ほんとにね、目玉焼きにサラダとウィンナーとパンにしようとしたんだよ?これでも」 「うん」 「目玉焼きはちょっと目を離したすきに焦げそうになって、とっさに混ぜちゃって」 「……うん」 「サラダは考え事しながら切ってたら、うっかりナスまで切っちゃてて。……しょうがないから炒め物にして」 「……」 「これじゃぁパンは無理だろうから、ご飯にしようと思って」 「で、みそ汁が…?」 「…………具がなかったから卵を…………」 「入れたらこんな風になったと」 笑い混じりに言われ、いたたまれなくなって瞳を伏せる。 「怒ってるわけじゃないんだよ?」 「……」 どんっと卵がまるまる入っているそれは、見るからにまずそうな出来で。 卵も途中からいったせいであまり綺麗になっていない。 唯一上手くできたのは野菜炒めぐらいで。 ただし、具はなんか変だが。 ナスとレタスとタマネギと薄切りにしたジャガイモとウィンナーと。(ポテトサラダを作る予定だったのだ) だが、流石にキュウリはいれなかった。 「卵のみそ汁はね、卵を研いでから二・三回にわけて入れるんだよ」 「……うん」 「ハヤト?」 「なんかいつもキールばっかやってたよなって思って」 「…………あぁ」 「キール、バイトもして学校にも行ってるだろ?」 「ハヤトもバイトをしているだろう?僕と違って何個も掛け持ちだし」 「………でもさ」 「あのね、ハヤト」 俺が言うより先に、キールが口を開く。 「僕はうれしいよ」 「えっ…?」 「僕が作った料理をハヤトが嬉しそうに食べてくれて」 「っ……」 「そんなに大変じゃないしね。他のことはハヤトも手伝ってくれるだろう?」 「………でもさ」 「うん?」 「俺もさ、やっぱり手伝うよ」 それにキールが不思議そうに首を傾げる。 「ハヤト?」 「だって俺だってキールのうれしそうな顔、見たいもん」 「………っ」 真っ赤に。 真っ赤になるキールを久しぶりに見た。 「……ふふ」 「ハヤトっ」 焦ったように言うキールを見つめ、笑う。 「今度、料理教えてな」 「っ…………」 「ね、キール?」 「君には……負けるよ」 「お互い様だよ♪」 「…………」 どことなく嬉しそうに笑うキールを見つめ、こんどこそちゃんとした料理を作ろうと心に誓った。 2014.10/11 如月修羅 再録 戻 |