声を、ききたくなかった。
自分じゃない名を呼ぶ、その唇。
永遠に塞いでしまいたかった。

永遠への月

「君が、悪いんだよ?」
月が輝いていた。
ここのところ雨ばかりで‥‥ネスと久しぶりに‘晴れたから’ということで 、バルが一緒に来たがるのを制し、二人で散歩に出てきたのだけれども。
地面に崩れ落ち、ネスを呆然と見上げる。
彼は月に照らされ、うっすらと微笑んでいた。
「僕を愛してる‥‥といった、その唇で」
他の人の名を呼ぶ。
「気付いてないと思ったの?マグナ」
「‥‥‥‥‥!!」
「好きなのか?僕よりもあいつが」
ずっと微笑んでいるネス。
「確かにあいつなら、優しくしてくれるだろうな。ねぇ、マグナ?」
ネスの手にはナイフ。いつも戦闘で使ってるやつだ。
「どうなんだい?僕よりも優しくしてくれるから、あいつを選ぶの?それとも、もっと違う理由?」
血がナイフから滴り落ち、地面にと吸い込まれる。
ただ、その血をぼーっと見つめていた。
「ねぇ、マグナ?」
「‥‥‥」
ネスが片膝をつき、俺と目線を合わせる。
何も写してない、でも、綺麗な瞳。
‥‥‥ネスは独占欲が強い方だ。それはつい最近まで知らなかったことだけど、でも誰よりも知っていたような気もする。
‘きっと、血の記憶のせいだ‥‥’と笑っていたけれど。
多分、ネスはとっくの昔に狂っていたのだろう。
狂わないで、いられようか?
あんな居場所で。
あんな仕打ちを受け続けて。
そして、昔からの記憶にも縛られて。
何も知らない俺を見て、どんなにネスは俺を恨んだだろう?憎んだだろう?
狂わないでいられるわけがない。
‥‥‥‥‥ネス。
「‥‥‥‥‥‥」
「しゃべらないのか?‥‥‥痛い?マグナ」
こんな状況なのに、優しい声音。
「‥‥‥‥っ」
切り裂かれた肩を強く握りつけられ、顔をしかめる。
「じゃぁいいさ。‥‥二度とあいつの名が呼べないようにするだけだ」
「‥‥‥‥っ?!」
ザクッ!
と、いう音がした気がした。
喉にと手をやる。
そこから走る、熱いぐらいの痛み。
溢れ出る血。
押さえた手を伝って、生暖かい血が地面にと落ちた。
ぼんやりする頭で、人間の血は暖かいんだなぁ‥‥と思う。
「大丈夫だ。死にはしない深さだから」
再び微笑むネス。
「あぁ‥‥ついでに足を切ってしまおうか?」
つっ‥‥と自分の血で濡れる刃を足にあてがわれる。
「あいつの元に行けないように」
浅く切られ、血が流れた。
「あいつに触れないように、腕も切り落とそうか?」
「‥‥‥‥‥」
「目も、耳もすべて‥‥すべて斬りつけて。僕だけを頼って‥‥‥」
そっと瞼を閉じる。
瞼の裏には、さっきまで見ていた白く美しい月が輝いている。
‥‥‥‥ばかだなぁネスは。
小さく笑う。
本当にバカだ。
俺が、他の人の所になんか行くわけがないのに。
ネスがいればそれでいいのに?
抱き上げてくれるネスにと、そっと寄り添う。
俺にはネスがいてくれればそれで良いんだ。
だから、ネスになら何をされてもかまわない。ネスが俺だけを見てくれるなら、何だってするから‥‥‥。
―‥‥‥‥‥‥‥これで、ネスは俺だけしか見ない。ずっと側にいてくれる。
なんて、幸せ。
血で汚れた腕を持ち上げて、ネスの首にと回す。
そして、そっと口付けた。
この状態じゃぁ、しゃべれないから。
だから‥‥‥‥口付けにと思いの丈を込める。
そんな俺に、ネスもうれしそうに‥‥‥微笑んでくれた。




2014.6/24 再録 如月修羅

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