IF

油断した。
これしか言いようがない。

じりじりと熱を持った首筋を押さえ、小さく溜め息ついた。
どうしようもない、恐怖。
カタカタとなる指先を人事のように見つめ…空を仰ぎ見れば、そこにはいつもと変わらない、白い大きな月が輝いている。
禍々しいまでの美しさに、逆に安堵を覚えた。
「……ガユス」
「ギギナ」
後ろを見ずに分かる、相方の気配。
これもいつもと変わらない。
変わったのは俺自身。
きっとギギナも気付いてしまっているだろう。
「貴様は…」
馬鹿にしようとして、出来なかったのだろう。
不自然に言葉が途切れ…そしてギギナが溜め息ついたのが分かった。
「軟弱だな眼鏡の土台…」
疲れたようにギギナが呟く。
いつものような覇気が声にない。
………それは俺もだろうが。
「………」
伸びてきた指先を拒まなかった。
首筋に触れる指先。
そして…疼く傷口。
「噛まれたのか」
「あぁ…油断した」
「やはり貴様は軟弱眼鏡だったな」
「………あぁ。そうだな……」
ふぅっと溜め息つき、あとどのくらいこうしてギギナと喋っていられるのだろうと苦笑混じりに思う。

今回の仕事は、街の外れの村に出たまがつしきを退治する事だった。
敵は一体。
簡単な仕事だと思われたのだが、そうは…信じてもいない神が許さなかったようだ。
奴は、“吸血鬼”と呼ばれていた。
その名の通り人間たちの血を吸い、仲間を増やし…そして、半端じゃない攻撃力を持つ。
防御力と、血さえ吸えば回復力にも困らない。
本当にやっかいな相手だった。
攻撃すればするほど仲間が増え、どんどん悪循環に嵌りこむ。
遠距離からの攻撃はすべて回避され…最終的に。
俺は動けなくなった振りをし…相手が油断し、俺の間合いに入ってきた所で…。
攻撃を仕掛けた。
ギギナのような生体系咒式士ではまず無理だろう。
吸血鬼と呼ばれるこの種族は光、または火に弱い。
化学練成系咒式第三段階位<爆炸吼>を敵の懐で発動。
吹っ飛んだ所でさらに攻撃を仕掛けた。
その時だ。
敵が懐に入ったことに油断し…噛まれてしまったのだ。
耳元で奴が囁いた言葉を忘れない。

『血のように美しい髪を持つ貴殿は…今までで、もっとも美しい伴侶となるだろう』

と。

「ギギナ」
思考から帰還する。
「なんだ」
「間抜け面」
ふふっと笑い、いつもより動きの鈍いギギナの鼻先をつつく。
こんなことまでされるなんて…ほとほと俺にと呆れているのだろう。
「まぁ、あれだ…。な、ギギナ」
「主語を話せ。馬鹿な頭がさらに馬鹿になったか?ガユスよ」
「主語どころか人間の言葉を理解できないドラッケンにそこまで言われるとは俺も堕ちたものだな」
「……ガユス」
ぐっときつくギギナの腕が俺の腕を掴む。
食い込む爪。
「痛い、ギギナ」
「言いたいことがあるのなら、さっさと言え。目をそらすな」
「………っ!」
「貴様の望み、私が叶えてやろう。主人の務めだ」
普段ならその言葉に反発を覚えているだろう。
しかし…今は。
その言葉が何よりも嬉しかった。
ぎこちなく微笑む。
「なら、殺してくれ」
「………………」
「俺が人を襲う前に」
微笑めば、ギギナも微笑む。
美しい、神の化身。
「応」
その言葉に、歓喜を覚えた。
他人になんか、殺されたくない。
殺されるのなら、この腕がいい。
白い肌にと指先を滑らし、そっと掌で包み込んだ。



2005.9/13 如月修羅

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