甘イ歌声
新聞を読んでいると、隣の部屋から声が聞こえた。
俺は…調教していないから、隣の奴が調教したんだろう。
政治面を読みながら…今度パソコンを弄ってみるか、と決意する。
カイトの歌声はさすがボーカロイド。
音楽に疎い俺でも、聞き惚れる歌声だ。
調教の腕もかなり良かったのだろう。確か…隣の奴は音楽で飯を食ってるといっていたし。
と、突然歌が変わった。
さっきまでの甘い恋の歌じゃない。
「ねぇマースター、こっち向いて♪」
それは有名な…なんか白っぽいカバが出てくる奴の歌じゃないだろうか。
替え歌になってるけど!
ちなみに、正しく言うとあれは妖精らしい。
………なんの妖精かはしらんが。
「こーわがーらないで〜♪」
どうしてあれが妖精なんだろうなぁ…。
外国の人の感性はちょっと俺には理解できない。
あとあの白い長い奴?
あれとかさ、一体なんであんなに群生してるんだ…
そこまで考えたところで、ガンッと音が響いた。
「………っ」
驚いて音のした方を向けば…。
カイトがにこっと微笑んだ。
「…カイト?」
「マスター、やっと見てくれた」
くすくす笑うカイトの足元には…コップが砕け散っていて。
これで今月何個目の犠牲だろう…?
安物とはいえ、お金はかかるわけだし。
はぁ…と溜息付き、カイトの傍に寄る。
「…マスター、怒り…ました?俺のこと、嫌いになります…?」
途端しゅんとしたカイトが俺の肩にと手を伸ばす。
それをそっと握ってやり、頭を撫でてやった。
「いや、嫌いにはならないけど…怪我、しないようにあっち行ってな」
「マスター……」
カイトは放っておくと、そのまま破片で自らを傷つけ始める。
初めてコップを割った日、「片付けます」という言葉を鵜呑みにして放っておいたら…自らの腕を傷つけていた。
ぽたぽたと滴る赤い血が、作り物のはずなのに…酷く、恐ろしいものに自分には写った。
どうやらカイトは俺の注意を引こうとそういう行動に走るらしい。
ならば…そうならないように、出来るだけカイトが俺のことを見える所にいようと…思った。
弱く、蹲るカイトをみたからだろうか?
なぜかカイトを放っておけなくて。
気が付けば…俺の日常はカイト中心に回っていた。
「マスター……」
もう一度呼ばれ、顔をあげる。
酷く不安そうな表情で俺を見るから…。
「カイト」
「………っはい!」
「今日、俺に調教の仕方教えて」
「………ぇ」
「確かカイトも少しは出来るんだろ?」
俺の言葉に、カイトが嬉しそうにわらった。
昔見た―あの笑顔に、近い。
青空が似合う、あの笑顔に。
もう一度、あの笑顔と歌声を聴きたいと願ったから。
「マスター、大好きです」
だから、カイト。
その破片で自分を傷つけるのは、止めてくれ。
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2009.3/2 如月修羅
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