雪の日のお散歩と新たな出会い 後半
※さりげなく、北村さんがでてきます。
それに伴い、ヤンデレカイトも一緒です。
「ちょ、お前なんなの?!馬鹿なの?!」
いかにも会社帰りです!
といったスーツに黒いコート。ちょっとくたびれた鞄を持った男の人が走ってくる。
表情は険しい。
マスターとは違って、黒い固そうな髪が動きにあわせてぱさぱさと揺れた。
「マスター!」
途端。
さっきまでの陰鬱とした雰囲気はなくなり、嬉しそうにKAITOが声をあげた。
「この間ちゃんとコート買ったよな?待つなとは言わないから、せめてそれを着て来い!」
あぁぁ…こんなに冷え切ってる…!
とKAITOに触りながら、その男性は悲痛な声をあげた。
…ということは。
「マスター、虐待、ってわけじゃないみたいですね」
「…そうだな………そうすると…あれは…」
「…?」
マスターは思案顔で、じっと二人を見ている。
「…って、この手袋…?」
「あ、俺のです」
そのときになって、漸く俺たちに気が付いたらしい。
男性がぺこりと頭を下げた。
「すみません…うちのカイトがお世話をかけました」
「いえ…」
「もしかして、エラーですか」
マスターがKAITOを見ながらいう。
そのKAITOといえば…彼のマスターのことしかみていない。
「…エラー?」
「え、やっぱりこれ…エラーなんですか?!」
「違いますか?帯人化しつつあるみたいですけど」
「…帯人?」
彼のマスターがその名前に首を傾げる。
「KAITOの亜種です」
「え、亜種なんてあるんだ…?!」
………どうやら、彼のマスターはボーカロイド初心者らしい。
…エラーを引き起こすようなウイルス、または何か出来事があったのだろうか。
「…もしかして初心者、ですか?」
マスターも同じことを思ったらしい。
彼のマスターが困ったように微笑んだ。
「元々は俺のじゃなかったんだよ。ちょっと事情があって今は俺がマスターだけど」
「…あぁ、それで…」
「と、名前も名乗らずさっきからごめんな。俺は北村柾人」
「此方も名乗らず申し訳ございません。時雨玲です」
「…そっか。宜しくな?時雨さん…ところで…図々しいって分かってるんだけど…」
色々教えていただけたらありがたい。
という言葉に、マスターが頷く。
「えぇ、いいですよ。俺も帯人には興味ありますし…カイト、平気?」
「マスターがいいのでしたら」
「ありがとう」
マスターが望むのなら、俺はそれに従う。
それに……俺も、やっぱり気になって。
「マスター?どうしたんです?」
不思議そうにKAITOが首を傾げる。
「あ、カイト。まずは…お前のコートを持ってこないとな…」
流石に初対面で家はあれだろうから、待っててくれる?
と言い…北村さんとKAITOが家まで戻っていった。
「マスター」
「なに、カイト」
「帯人化したってことは…ウイルスか……」
「マスター関連でなんらかの精神異常をきたすことがあったか、だな」
「………はい」
俺が想像できるのは…マスターから捨てられたか、マスターの死で。
どちらも俺にだって耐えることはできないだろう。
…そもそもKAITOはマスターにたいして異存する傾向があるのだから。
「壊れるまで想ってくれるなんて、凄く素敵だよな」
「マスター?」
「だから、興味があるんだよ」
にこっと笑ったマスターは、早く来てくれるといいねと歌うように囁く。
「俺だって、それぐらいマスターを想ってますよ」
其の声は、小さくて…マスターには聴こえないようだった。
前 戻
(せっかく世界観が一緒なので、共演させてみた)
200910.8 再録 如月修羅
|